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最高裁判所第一小法廷 昭和38年(あ)1929号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人三宅省三の上告趣意第一点は、違憲をいうが、道路交通法四八条一項の規定は、歩道と車道の区別のある道路においては、車両は車道の左側端に沿い、かつ他の交通の妨害とならないように駐車すべきことを命じているものと解すべきであり(このことは同法一七条三項に示された道路の意義に照しても明らかである)、これと同趣旨に出た原審の判断は正当であるから、所論違憲の主張は前提を欠き、同第二点は事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人の上告趣意第一点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同第二点は違憲をいうが、実質は事実誤認の主張であつて、これまたいずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

よつて、同四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(裁判長裁判官松田二郎 裁判官入江俊郎 斎藤朔郎 長部謹吾)

弁護人三宅省三の上告趣意

第一点 原判決には憲法の違反があり、破棄されるべきである。

一、原判決は、「同第三点について」において、弁護人の「歩道上の駐車が何故違法なのか」との控訴趣意に対し、「しかし道路交通法第十条第十七条の規定によれば歩道と車道との区別のある道路においては車両は車道を通行すべきことが原則とされており、同法第四十八条第一項の規定は車道と歩道との区別ある場合には車両は車道に駐車すべきことを前提としているものと解せられるから、……」と判示している。

二、右判示の前半は車両の通行区分を示したものに過ぎず車両の駐車場所の規定とはなりえない。

右判示の後半によれば道路交通法第四十八条第一項の規定は、歩車道の区別ある場合、車両は車道に駐車すべきことを前提としているというが、同条項には「道路」の定義がないのであるから、判示のように当然前提としているとはいえないのである。

旧道路交通取締法施行令(原判決には旧道路交通取締法に基く同法取締令とあるが、そのような政令は存在しない)第三三条には「駐車は、車道又は道路に巾三・四米以上の余地を……」とあり、現行法では単に「道路の左側端」とあり、はつきりと規定の仕方がちがつているのである。

従つて道路交通法第四八条第一項により歩道上の駐車は違法であるとすることはできないものである。

三、そうすると原判決は刑罰法規が存在しないのに拘らず被告人の所為を有罪と認めたものである。

これは日本国憲法第三一条の「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若くは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」との規定に違反するものである。

右条文は直接には刑事手続について定めたものであろうが、人権の保障に万全の考慮を払つたこの憲法に最も重要であり、且つ実質的な罪刑法定主義の規定を欠いているとは解し難いところであつて、「法律なければ犯罪なし、法律なければ刑罰なし」との罪刑法定主義を定めたものというべきである。

そして罪刑法定主義の内容としては「刑罰法規の類推解訳は許されない」との原則が含まれている。

原判決は被告人の所為について、明文の規定がないのに拘らず、これを処罰すべきものとしたが、以上の理由により、憲法第三一条の違反があり、原判決は破棄を免れないものである。<以下略>

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